自動車メーカーのホームページを見ると、車種ごとに燃費の記載がありますよね。たとえば、トヨタのプリウスだったら40.8km/Lと書かれています。これは、1リットルのガソリンで、40.8kmの距離を走行できるという意味です。
ただ、実際に走行してみると、この数値よりも2~3割ほど下回ることが多いと思います。カタログの燃費は実走行との差が激しいために、あまり信用できるものではありません。
そういった問題を解消するために、2018年10月からWLTPモードという国際基準を採用することになりました。この測定方法を採用すれば、実際の燃費に近い数値を計測できるとされています。
ここでは、過去の測定方法と新しいWLTPモードについて、どれほどの違いがあるのかを解説していきますね。
目次
三菱自動車による燃費不正の影響
2016年4月に三菱自動車は、実際よりも燃費を良く見せる不正を行っていたと発表しました。不正の対象となるのは、三菱の「eKワゴン」「eKスペース」、日産に供給していた「デイズ」「デイズルークス」の4車種です。
その後、販売中の8車種と販売終了の5車種も、不正があったと発表しました。
「アウトランダーPHEV」「ミラージュ」「デリカD:5」「パジェロ」「RVR」「i-MiEV」「ミニキャブ・ミーブ バン」「ミニキャブ・ミーブ トラック」
【販売終了の5車種】
「旧型アウトランダー」「ギャランフォルティス」「ギャランフォルティス スポーツアウトバック」「コルト」「コルトプラス」
不正の手口としては、走行試験のデータではなく机上の計算で割り出した数値を検査機関に提出するというものでした。
燃費の試験には、タイヤと路面との摩擦によって生じる「走行抵抗」のデータがを測定する必要があります。これは、クルマを走行中にアクセルを離して、一定の速度に落ちるまでの時間から計測されます。
三菱自動車は、この走行抵抗のデータを改ざんしていたわけですね。目標燃費になるように走行抵抗を計算し、その数値を検査機関に提出していました。
燃費の試験は、子会社の「三菱自動車エンジニアリング」が行っていましたが、親会社の三菱自動車の管理職が不正を行うように指示していたようです。本社の人間がかかわっていたわけですから、かなり悪質だといえますね。
この件で、三菱自動車は2400億円の赤字を計上し、日産から2373億円の出資を受けて傘下に入ることになりました。
スズキでも国の指定とは異なる方法で測定
三菱の不正発表を受けて、スズキも2016年5月に燃費の測定を国の指定とは異なる方法で行っていたと発表しています。自社で販売している車種に加えて、マツダや日産、三菱に供給していたものも含めて26車種にもなるようです。
不正の内容としては、国が定める屋外での走行テストを行わずに、屋内で測定した結果を申請していました。
でも、正しい方法で測定し直したところ、公表している燃費を上回ったことから、そのまま販売が継続されています。
こちらは、消費者としては損にならないので、あまり大きな問題にはなっていません。
こういった感じで、自動車メーカーによる燃費の不正が明らかになったため、新しい燃費の測定方法が検討されることになりました。
今後は国際基準のWLTPモードという方法が採用されますが、それ以前の測定方法と比較しながら説明をしていきます。
10・15モード燃費について
2011年3月まで使用されていた燃費測定で、市街地や郊外での走行を想定した日本独自の基準です。
10・15モード以前の燃費測定は、一定速度(60km/L)でテスト走行を行った結果を燃費として表示していました。しかし、それだとストップ&ゴーが多い市街地での走行で誤差が大きくなるので、全く参考にならなかったわけです。
そこで、市街地を想定した10項目の走行パターンを組み込んだ「10モード燃費」が採用されて、その後に郊外を想定した15項目が追加された「10・15モード燃費」に変更されました。
測定方法としては、実際に走行するのではなく、シャーシダイナモを使用した屋内計測となります。車両重量に合わせて駆動輪に与える荷重が変更されるので、同じ車種でもグレードによっては燃費の誤差が出ることがあるようです。
- 3,000km慣らし走行後の車両
- 60km/h 15分暖機後モード測定
- 車両(空車)状態+110kg(2名乗車分)
- 搭載電気機器 OFF状態
- エアコン OFF状態
- アイドリング状態(20秒)
- 20km/hまで加速する(7秒)
- 20km/hをキープして走行(15秒)
- 20km/hから減速して停止(7秒)
- アイドリング状態(16秒)
- 40km/hまで加速する(14秒)
- 40km/hをキープして走行(15秒)
- 40km/hから20km/hまで減速(10秒)
- 20km/hから40km/hまで加速(12秒)
- 40km/hから減速して停止(17秒)
- アイドリング状態(65秒)
- 50km/hまで加速する(18秒)
- 50km/hをキープして走行(12秒)
- 40km/hに減速して走行(4秒)
- アクセルをオフにした状態(4秒)
- 40km/hから60km/hまで加速(16秒)
- 60km/hをキープして走行(10秒)
- 60km/hから70km/hまで加速(11秒)
- 70km/hをキープして走行(10秒)
- 70km/hから50km/hまで減速(10秒)
- 50km/hをキープして走行(4秒)
- 50km/hから70km/hまで加速(22秒)
- 70km/hをキープして走行(5秒)
- 70km/hから減速して停止(30秒)
- アイドリング状態(10秒)
上記の10モードを3回、15モードを1回測定して燃費を算出します。
JC08モード燃費について
先述した10・15モード燃費でも、実際の燃費とはかけ離れた数値が算出されていました。理由としては、測定するスピードが遅すぎたり、加速する時間が長かったり、通常の走行とは異なる条件で計測していたからです。
そこで、2011年4月からは、「JC08モード」という新しい基準を採用することになりました。測定時間を延長し平均時速も高められたので、より実際の走行に近い形で計測することができます。
また、10・15モードだと完全暖気状態での測定のみでしたが、JC08モードからはコールド状態の測定も25%ほど組み込まれることになりました。より厳しい条件下での測定になったので、10・15モード燃費よりも1割ほど低くなりますね。
ついに国際基準を採用!WLTPモード燃費とは?
WLTPモードとは、「Worldwide harmonized Light vehicles Test Procedure」の頭文字をとったもので、国際連合欧州経済委員会が主導している国際基準の燃費計測方法となります。
「低速」「中速」「高速」「超高速」の4つの速度域に分けて計測を行うことにより、市街地や郊外、高速道路などの条件下で燃費を測定することができるわけです。
ただ、超高速の速度域は、ドイツのアウトバーンを想定したもので、平均時速92km・最高速度131kmに達します。これは日本の道路事情に即していませんから、超高速フェーズは日本では除外されるようです。
WLTPでは、最高速度やPMR(定格出力÷空車重量)などによって、4つのクラスに分類されます。
クラス1 | PMR22以下 |
---|---|
クラス2 | PMR22~34 |
クラス3a | PMR34以上(最高速度120km/h未満) |
クラス3b | PMR34以上(最高速度120km/h以上) |
ただ、日本車のほとんどは、クラス3bに分類されますね。軽貨物車の一部は、クラス3aに該当します。
クラス1~2の車両は、インドなどの新興国向けの小型車が該当するため、日本車であればほとんど関係ありません。日本車で唯一クラス2に該当するのが、ホンダのバモスですね。それ以外は、クラス3ですから覚えておきましょう。
JC08モードとの違いは何か?
WLTPモードは、JC08モードよりも平均時速がアップしています。走行時間や距離も増えているので、より正確に計測できるようになっていますね。
JC08モードではアイドリング時間の比率が3割近くを占めていましたが、WLTPモードでは15%程度まで短縮されました。そのため、アイドリングストップ搭載車は、燃費の値は悪化するでしょう。
今の車はエコを意識してアイドリングストップが当たり前ですから、それらのカタログ燃費はすべて悪くなるはずです。
また、車重の設定も大幅に変更されます。JC08モードでは、車両重量に加えてドライバーとして110kgを上乗せしていました。
しかし、WLTPモードにおいては、車両重量とドライバー100kg、残りの積載可能重量に積載率(乗用車は15%、小型貨物車は28%)を掛けたものが上乗せされます。すべて一律ではなく、車両に合わせた重量が加算されるわけですね。
JC08モードでは、暖気前の走行が25%、暖気後の走行が75%で計測を行っていました。一方、WLTPモードにおいては、暖気前のコールドスタートのみでの計測になります。
現在の車はクリーン技術が進んでいるので、エンジンが暖気した状態だと排気ガスがほとんど出なくなったためですね。性格に排気ガスの状態をチェックするために、コールドスタートのみでの計測に変更されました。
国際基準を採用することのメリット
現在の燃費の計測方法は、その国の独自の方法で行われています。たとえば、欧州だとNEDC、アメリカではEPAといった方法を採用していますね。なので、海外へ輸出して販売する際には、各国の試験を受け直さないといけません。
すると、国によって異なる基準を達成するために細かな仕様変更などが必要なので、時間とコストが余計に掛かってしまうわけです。
でも、国際基準のWLTPモードを採用すれば、一度の試験で複数の国に対応したデータを収集することができます。今よりも大幅にコストをカットできますから、すべての自動車メーカーにメリットがありますね。
カタログ燃費はあくまでも目安に過ぎない
国際基準の燃費測定法を採用したとしても、実際に走行すると燃費に差が出てくるはずです。燃費というのは、運転方法や走行環境によって変わるので、個人差が出てくるからですね。
だから、カタログ値で30km/Lの車を買ったとしても、実際に走ってみると20km/Lしかなかったということはよくあります。ですので、メーカーが公表する燃費を鵜呑みにしないことが大切です。
丁寧な運転を心がけていれば、燃費を改善することは難しくありません。急発進や急加速を控えるなど、簡単な意識で燃費を良くすることはできるでしょう。
正確な燃費は満タン法で計測する
自分の燃費を調べるには、満タン法を使えば簡単です。以下の手順を使って、計算をしてみてください。
- ガソリンを満タンにする
- トリップメーターをリセットする
- そのまま普通に走行する
- ガソリンが無くなったら満タンになるまで給油する
- 走行距離を給油量で割って計算する
この方法を使えば、どれくらいの距離を走るのに、どれくらいのガソリンを使ったのかを調べることができます。
たとえば、2回目の給油の際に26Lのガソリンが入ったとして、トリップメーターが400kmだったとしましょう。すると、「400km÷26L=15.3」という計算が成り立つはずです。この場合だと、15.3km/Lの燃費だということですね。
毎回の給油の際に計算していれば、燃費の良い時と悪い時の差が分かると思います。どうすれば燃費を良くするかが分かってくると思いますから、燃費を計算する癖をつけておくと良いでしょう。
以上、燃費の測定方法を紹介しました。WLTPモードが採用されれば、今よりも正確な燃費が計測できるようになります。なので、新しい車を購入するときに、判断材料にすることができますね。