世界的に関心の高い技術として、クルマの自動運転があります。特に、アメリカを中心として開発が進んでおり、テスラモーターズやグーグルなどが有名ですよね。すでに、テスラモーターズでは、自動運転車が市販化されています。
これが普及すると生活スタイルが大きく変わりますし、画期的な技術だといるでしょう。ただし、現状では問題点や課題も山積みとなっており、本格的な普及には時間が掛かりそうです。
ここでは、現状の自動運転車について解説します。
目次
自動運転車の仕組みとは?
自動運転車とは、ドライバーがいなくても、単体で走行することができるクルマのことを指します。遠隔地から車を呼び出すことができたり、寝ている間に目的地へ着いたりすることができるわけです。
ただ、これは自動運転の目指すべき最終地点であり、現状では「運転支援システム」の段階までしか進んでいません。具体的には、センサーによって危険を察知し、ブレーキやステアリング制御によってリスクを回避するというものですね。
自動運転が実用化されるまでには、4つの段階を経る必要があります。
レベル1 | アクセル、ブレーキ、ハンドルのいずれかの操作が自動 |
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レベル2 | アクセル、ブレーキ、ハンドルの複数の操作が自動 |
レベル3 | アクセル、ブレーキ、ハンドルの全ての操作が自動 (緊急時にはドライバーが操作を行う) |
レベル4 | ドライバーは運転に一切関与しない |
ドライバーが運転に関与しなくなるのは、レベル3以上からですね。レベル3で2020年・レベル4で2025年には、実用化が可能だとされています。
自動運転はセンサーと人工知能によって行われる
自動運転のメカニズムは、各種センサーと人工知能(AI)が組み合わされて機能しています。
GPSやミリ波レーダー、ビデオカメラ、レーザーレーダー(LIDAR)などがボディの各部に取り付けられており、そこから他の車両や歩行者の存在や距離感などを読み取っていきます。
その情報が人工知能に送られて、クルマの進路変更や障害物の回避などの処理が行われるわけです。
この辺の仕組みは、人間と同じだと思っていいでしょう。私たち人間も、目や耳などから情報を収集し、脳によって行動を判断しています。前に障害物があったら避けようとしますし、人が飛び出してきたら止まったりしますよね。
それを機械でやっているだけですから、シンプルな構造だといえます。
自動運転車が普及したら得られるメリット
交通事故が少なくなる
交通事故の多くは、人為的なミスによるものです。不注意で前方確認を怠ったり、疲労による集中力の低下などがあります。さらに、最近だと高齢者がブレーキとアクセルを間違えるといった事故が多発していますね。
自動運転車が普及すると、こういった事故は無くなります。センサーによって全方位を常に監視していますから、確認ミスが起きることはあり得ません。反応速度も人間よりもはるかに高いですので、事故のリスクは圧倒的に減るわけです。
渋滞が緩和される
渋滞が起きる主な要因として、人によって速度や車間距離が異なることが挙げられます。一定の速度と車間距離を維持しなければ、クルマの流れが悪くなって渋滞が起きてしまうわけですね。
しかし、自動運転になると、車間距離を一定に保つことができるようになります。さらに、他のクルマと連携することで、一つのルートに車が集中しないように調整することも可能です。
そうすることで、道路の流れがスムーズになりますから、お盆や正月などでも渋滞は緩和されるでしょう。
時間を有効に活用できる
自分で運転しなくて良いので、移動中に本を読んだり食事をすることができます。女性なら化粧をすることもできますし、疲れているなら寝ることだってできるでしょう。
通勤や通学で1時間かかっているなら、その時間を有効に使えれば効率的に生活できるようになります。自由な時間を増やせれば、自己啓発やリフレッシュのために充てることができるはずです。
交通トラブルが減る
車に乗ると、攻撃的になる人っていますよね。無理な追い越しを繰り返したり、前の車を煽ったりするような人です。交通トラブルが原因で、傷害事件に発展するケースも珍しくありません。
でも、車の運転がコンピュータ任せになれば、そういったトラブルは無くなります。自分で運転しないわけですから、イライラすることもないでしょう。
スピードや車間距離が一定に保たれてスムーズに流れていくので、ストレスフリーで車に乗ることができます。
道路標識が少なくなる
人間が運転する場合には、道路標識が不可欠となります。でも、自動運転車の場合だと、そういった標識は必要ありません。地図情報を読み取るだけで、交通ルールを認識することができるからですね。
なので、道路標識の数が減っていき、景観を良くすることができます。すべてのクルマが自動運転になれば、道路標識や信号などもすべて無くなるかもしれません。
自動運転車には危険がいっぱい!?
実現すれば夢のような技術である自動運転ですが、現時点では色々な問題点が指摘されています。
2016年5月には、自動運転車で初となる死亡事故も起きました。アメリカでテスラモーターズ社の自動車でオートパイロット走行中に、前方に割り込んできたトレーラーに巻き込まれて運転者が死亡した事故ですね。
運転者はDVDを見ながら走行していた可能性があり、トレーラーの存在に全く気付いていなかったようです。
これを機に、7月6日に国土交通省から、自動運転車についての注意喚起が出されました。
5月に米国において事故が発生したテスラの「オートパイロット」機能を含め、現在実用化されている「自動運転」機能は、運転者が責任を持って安全運転を行うことを前提とした「運転支援技術」であり、運転者に代わって車が責任を持って安全運転を行う、完全な自動運転ではありません。
引用:国土交通省
現段階では、運転をサポートする機能しか果たしておらず、あくまでも自分で運転しないといけないということですね。なので、過剰な期待をするのは止めておきましょう。
他にも、自動運転車に想定される危険性はいくつもあります。
ハッキングのリスク
先述したように、自動運転車はセンサーや人工知能などで、コンピュータ制御されています。なので、ウイルスなどの感染すると、ハッキングの被害を受けることになるかもしれません。
車がハッキングされると、システム異常を起こして正常に走行できなくなってしまいます。最悪の場合、第三者によって遠隔操作されてしまい、急発進・急ハンドルによる衝突や急ブレーキによる玉突き事故などを誘発する可能性がありますね。
天候による不具合のリスク
雨や雪、霧などで視界が悪くなると、GPSやミリ波レーダー、レーザーレーダーなどが正常に機能しないことがあります。
そうなると、前方の霧を障害物だとみなして急ブレーキが作動したり、GPSによる現在位置の把握ができなくなるかもしれません。もしくは、歩行者や車を認識することができずに、衝突する可能性もありますね。
衝突しそうな時の対応
いざ衝突しそうな状況に遭遇した場合、人工知能が行う判断にも疑問が残ります。
たとえば、急に歩行者が飛び出してきたときに、急ブレーキを踏むと追突される恐れがあるときなどです。この場合、追突されても良いからブレーキを踏むのか、追突を避けるために歩行者を轢いてしまうのかを選択しなくてはいけません。
何かしらの被害を避けられない場合に、どの選択肢を選ぶのかを機械的な判断に任せるのは怖いことですよね。自動運転車が普及すると、このような内容の裁判が増える可能性があります。
自動車保険のあり方も変わってくる
現在の交通事故では、車両の欠陥がない限り、ドライバーが過失割合に応じて責任を負うことになっています。実際、事故の9割はドライバーの過失によるものですから、その賠償を加入している保険会社が支払う形で機能しています。
しかし、自動運転においては、ドライバーの責任は無くなるので、人工知能やレーダー、セキュリティなどの車両側の欠陥が問われることになるわけです。こうなると責任を負うのは、自動車メーカーということになりますね。
ですので、自動車保険の役割自体も変わってくるでしょう。将来的にはドライバーは保険に加入する必要はなく、自動車メーカーが保険に加入する時代になるかもしれません。
または、歩行者側が保険に加入して、事故の被害に遭った時に補償を受けるタイプが普及する可能性もあります。
保険会社の方でも、時代の変化を想定して、新しい保険商品を開発していますね。
イギリスの保険会社「Adrian Flux」では、以下の損失を補償する保険を2016年に発表しました。
- ハッキング行為が原因の損失
- ソフトウエアのアップデートや修正処理の失敗が原因の損失
- 衛星の障害や停電に基づくナビシステムへの影響
- 各種自動運転ソフトの障害
- オーバーライド(自動から手動へとモード転換)の失敗が原因の損失
また、日本の東京海上日動火災保険でも、2017年4月から「被害者救済費用等補償特約」を設けることを発表しています。これは、契約車両が想定外の動作をして事故を起こした場合、その損害を賠償するといった商品です。
東京海上は、被害者に保険金を支払ったのち、自動車メーカーに賠償請求を行います。これにより、被害者から自動車メーカーに賠償請求する負担を減らすことができるわけですね。
このように、現時点でも自動車保険に変化が出始めており、将来的にはもっと大きな変革があるでしょう。
自動運転車の今後の課題について
法律の整備
現行の道路交通法では、自動運転車に対応していません。自動運転なら事故の件数は少なくなりますが、それでもゼロにはならないでしょう。事故が起きた時の責任の所在など、ハッキリとさせる必要があります。
一部でもドライバーの責任になるのか、自動車メーカーが全責任を負うのかが重要な争点ですし、ドライバー無しで走行中の事故はどうするのかなど、議論する余地はたくさんありそうです。
インフラの整備
自動運転車にはレーダーレーザーやカメラなどが搭載されていますが、それ単体で自動運転を実現することはできません。GPSによる現在位置の特定や道路情報を受信することによって、人工知能によって操作が可能になるわけですね。
そのためには、大規模なインフラの整備が必要になります。GPSの精度を高めるためには衛星システムをアップデートしなくてはいけませんし、毎日のように変化する道路情報を収集するシステムも必要です。
こういったインフラの整備には膨大なコストがかかるので、すぐに実現することは難しいといえます。
技術的な問題
現時点では、完全自動運転は実現しておらず、運転支援システムとしての機能しか果たしていません。テスラモーターズの自動運転も高速道路に限定されているので、一般道路での走行は難しいようです。
予測困難な多くの障害がある一般道路での自動運転を実現するためには、各種センサーやGPS、人工知能をさらに発展させる必要があります。子供や動物の飛び出しやっ落石・倒木などを回避するためには、もっとセンサーの感度を上げないといけません。
今の技術では実現が難しいですから、今後どれだけ発展できるかですね。
訴訟リスクの増大
事故の責任が自動車メーカーに問われることになった場合、世界中でメーカーに対する訴訟が頻発するはずです。なので、かなりの金額の賠償金が発生する可能性があり、自動車メーカーの経営に影響を与えるかもしれません。
さらに、システムの欠陥が見つかったらリコールが必要になるので、その費用に関しても相当な金額になるでしょう。
タカタ製のエアバッグの欠陥で世界中で100名以上の死傷者を出した事件がありましたが、その賠償やリコール費用などで数千億の損失が出ているようです。これと同じような例が起きるかもしれないので、メーカーとしてはリスクが増大します。
コストダウンの問題
テスラモーターズの自動運転車は、新車価格で1,000万円ほどします。さすがに、庶民には手が出ない価格ですよね。まだまだ先進技術ですから、市販するとしても超高額になってしまうわけです。
これから自動運転車が普及するためには、今よりも半額くらいにならないと難しいでしょう。今後量産化が進んだり、政府の補助金などが出るようになれば、もっと安く買えるようになるかもしれませんね。
以上、自動運転車の問題点や今後の課題について解説をしました。
実用化に向けて世界的に研究されている分野なので、近い将来に実現する可能性は非常に高いです。今の段階では問題点も山積みですが、それらが解決して実用化される日がすごく楽しみですね。