車の雑誌などを読んでみると、「デュアルクラッチトランスミッション」という言葉を目にすることがあります。欧州車では当たり前に採用されているトランスミッションですが、日本車でも採用する車種が増えてきました。
オートマの一種であり、ATとMTの良いとこ取りをしたような感じです。スポーティーな走りを体感できるので、高級スポーツカーなどに採用されることが多いですね。
ここでは、デュアルクラッチトランスミッションの詳しい仕組みやメリット・デメリットについて解説をしていきます。
目次
デュアルクラッチトランスミッションの仕組み
デュアルクラッチトランスミッション(Dual Clutch Transmission)は、略してDCTと呼ばれます。直訳すると、「2つのクラッチを持つ変速機構」という意味ですね。
中空構造の2つのクラッチがあり、外側のクラッチが偶数ギアに、内側のクラッチが奇数ギアと繋がっています。
発進の際には自動的に1速が選択され、1速で走っている間に2速の回転数を合わせて準備をするわけです。その後、2速にシフトアップした後は、その前後である1速と3速の回転巣を合わせて準備を行われます。
こういった要領で、シフトチェンジが行われていくという仕組みです。
言葉で書くと難しいですが、下の動画を見ると感覚的に分かると思います。
DCTのメリット
変速スピードが超高速
先述の通り、DCTでは常に前後のクラッチが準備状態に入っています。なので、いつでも瞬時にギアを切り替えることができ、変速スピードがものすごく速いのが特徴です。
フェラーリやポルシェなどものスーパーカーも、この特徴を生かしてDCTを積極的に採用していますね。プロのレーサーよりも素早い操作が可能になるため、かなりスポーティに走ることができるわけです。
シフトミスを防ぐことができる
スーパーカーに限ったことですが、シフトミスによる事故を防ぐためにDCTを採用しているケースがあります。たとえば、200㎞/h以上の超高速時において、シフト操作の失敗やクラッチ滑りが起きると、スリップして大事故になるかもしれません。
DCTであれば、クラッチ操作の失敗がありませんから、そういった事故の防止にもなります。日産のGT-RもDCTを採用していますから、安全にスポーツ走行を楽しむことができるわけです。
巡行時の燃費がいい
即座にギアチェンジができるのは、動力の伝達ロスが少ないことを意味します。パワーを落とさずに加速することができますから、燃費性能にも優れているということです。
通常のMTやATだと、変速するのに若干の間が空いてしまいます。そこでパワーをロスしてしまうので、余計な燃料が失われてしまうわけです。DCTにはその欠点がありませんから、かなり効率の良い構造といえますね。
欧州では渋滞が少なく常に車が流れているので、DCTによるメリットが大きく普及率も高いです。日本でもトラックや高速バスなど、高速道路を走行することが多い車両に採用されています。
特に、欧州ではダウンサイジングターボが主流ですから、それとの相性が良いことも影響しています。ターボエンジンは、ターボが発動するまでのラグが欠点ですが、DCTの素早い変速でラグを抑えることができるようになっているということです。
DCTのデメリット
渋滞が多いと不具合が起きやすい
DCTは、頻繁にシフトチェンジが行われるので、日本のような渋滞が多い道路状況では向いていません。海外の高級車は冷却性の高い湿式クラッチを採用しているので問題ないですが、日本の大衆車では安価な乾式クラッチを使っています。
乾式クラッチだと冷却性が悪いので、湿度が高くて気温差の激しい日本では、渋滞時などに高温になりやすいです。なので、どうしても不具合が出やすくなってしましますね。
実際、DCTを採用しているホンダのフィットでは、何度もリコールが出されています。
コストが高くなってしまう
DCTは、人間が行うべきシフトチェンジを、すべて機械でやるための仕組みとなります。そのため、かなり複雑な内部構造となっており、使用される部品もすごく多いです。当然、掛かってくるコストも増えてしまうわけですね。
海外の高級車ではコストが高くても採用できますが、日本の大衆車では難しいという現状があります。だから、欧州では当たり前のDCTであっても、イマイチ日本では普及していません。
クリープ現象が無い
普通のATでは、ブレーキを離すとアクセルを踏まなくても勝手に前進しますよね。これを、クリープ現象といいます。渋滞などで少し前進したい時に、すごく便利な機能です。
でも、DCTにおいては、このクリープ現象がありません。少し進むだけでもアクセルを踏む必要がありますから、違和感を感じる人は多いでしょう。間違えて踏みすぎると事故になる恐れもあるため、すごく危険だと思います。
そういったことを踏まえて、疑似的なクリープ現象を持たせた車種が増えていますね。疑似クリープを搭載した車種であれば、ATと変わらない感覚で運転することができるでしょう。
日本ではまだCVTが主流となっている
今の日本車で主流のトランスミッションは、CVT(Continuously Variable Transmission)です。これは、「連続可変トランスミッション」と呼ばれるもので、2つの可変プーリーをベルトやチェーンでつなぐ構造になっています。
プーリーの幅を変えることで変速を行っていくため、無段階変則となりシフトショックの無いスムーズな走りが実現できるわけです。
また、無段階なのでエンジン動力を効率的に利用することができ、特に渋滞時にストップ&ゴーを繰り返しても燃費性能に優れています。アイドリングストップとの相性は抜群で、日本の道路環境においてはパフォーマンスが高いです。
ただし、変速比を大きくするにはプーリーを拡大する必要があり、大型車に採用するには難しいという欠点があります。大排気量の車に対しては、ロックアップと呼ばれるエンジンとミッションを直結したタイプのATが採用されていますね。
どのメーカーも燃費競争に躍起になっていますから、渋滞の多い日本で燃費が稼げるCVTが定着しているわけです。なので、なかなかDCTが入り込む隙が無いというのが現状でしょう。
国産車でDCTを採用している車種とは?
日本では普及が遅れているDCTですが、採用している車種が少しずつ増えてきました。
日産の「GT-R」や三菱の「ランサーエボリューションX」では、スポーツ走行を追求するためにDCTを採用していますね。MTのダイレクト感とATの手軽さを両立しているので、気軽に乗れるスポーツカーとして人気となっています。
そして、ホンダでもハイブリッド車には、積極的にDCTを採用していますね。それが「SPORT HYBRID i-DCD」で、ハイブリッドと7速DCTを組み合わせたシステムです。
燃費のみを追求したハイブリッドではなく、動力性能と燃費性能を両立させています。対応車種としては、以下の通りですね。
- フィットハイブリッド(2代目)
- ヴェゼルハイブリッド
- グレイスハイブリッド
- ジェイド(日本仕様のみ、RSを除く)
- シャトルハイブリッド
- フリードハイブリッド(2代目)
- フリード+ハイブリッド
以上、デュアルクラッチトランスミッションについて解説をしました。国産では対応車種が少ないですが、MTのようなダイレクト感を味わうことができる変速機構です。スポーティーな走行が好みの人は、チェックしておくべきでしょう。