自賠責保険の運用益は何に使われているのか?
ツイート各保険会社が回収した自賠責保険料は、共同プールとして一つの口座に集められます。そして、配分率に応じて各保険会社に分配されるわけです。
しかし、保険料を受け取って保険金を支払うまでには、かなりの時間差がありますよね。保険に契約して一度も事故を起こさない人がいますし、数年後に事故を起こす人もいるでしょう。
そのため、自賠責保険料は長く保管されることになります。そこで、お金を寝かせるだけではもったいないので、保険会社はそれを運用して利益を出しているわけです。
運用益の使い道について
自賠責保険料の運用によって得られた利益は、保険会社が私的に利用することはできません。「ノーロス・ノープロフィットの原則」があるので、自賠責保険を営利目的で運営してはいけないわけですね。
そこで、運用で得られた利益は日本損害保険協会に集められ、主に交通事故の防止や被害者保護のための事業に使われています。これを「自賠責保険運用益活用事業」と呼びます。
実際にどれくらいの費用が使われているのかというと、以下の表の通りです。
自動車事故防止対策 | 102,695千円 |
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救急医療体制の整備 | 596,638千円 |
自動車事故被害者対策 | 1,040,001千円 |
後遺障害認定対策 | 70,000千円 |
医療費支払適正化対策 | 158,800千円 |
総額 | 1,968,134千円 |
総額で、約20億円の費用が使われているわけです。事業数は38個にもおよび、交通安全や被害者のサポートを行っています。
交通事故防止のための啓発・教育
- 飲酒運転防止のための啓発事業支援
- 交通事故防止用機器の寄贈
- 自転車事故防止のための交通安全教育支援
- 優先配慮行動を促す道路上のコミュニケーションと交通安全に関する研究
- 体調変化に起因する事故を予防するためのモデル事業支援
- 高齢者交通事故の原因とその施策に係る研究
- 運転可否判断支援尺度日本版による運転能力評価
- 地域住民との協働による高齢者交通事故防止のためのモデル事業支援
いまだに減らない飲酒運転を撲滅するために、一般市民向けに啓発運動などを行っています。また、交通事故を防止する目的で、全国の警察に「常時録画式交差点カメラ」や「歩行者模擬横断教育装置」などを寄稿したりもしていますね。
その他、安全運転の重要性を伝えるために、全国で色々な運動を行っているようです。こういった活動の裏には、自賠責保険の運用益が使われているわけですね。
救急医療体制の整備
- 救急医療機器購入費補助
- 救命救急センターへの救急医療機器購入費補助
- 高規格救急自動車の寄贈
- 救急外傷診療・看護の研修会費用補助
- 献体による外傷手術臨床解剖学的研究会費用補助
- ドクターヘリ講習会費用補助
- ヘリコプターを活用した救急医療システム構築のための事業補助
交通事故は、命に係るような重大な怪我をすることも珍しくありません。そのため、迅速に患者を搬送・処置できるように、病院に対して救急医療機器の購入補助を行っています。
また、意識が戻らない植物状態の患者を受け入れるような、高度医療施設の運営などに充てられています。
交通事故被害者への支援
- 交通事故無料相談事業支援
- 損害賠償金による交通遺児育成基金事業支援
- 交通遺児への奨学金支給補助
- 遷延性意識障害者の家族の介護に関する講演会および勉強会開催費用補助
- リハビリテーション講習会開催費用補助
- 脊髄損傷当事者によるピアサポート事業支援
- 被害者・その家族等の心のケア推進事業支援
- 交通事故被害者への情報提供・研修会開催費用補助
- eラーニングを活用した交通事故被害者生活支援教育と中核的人材の育成
- グリーフケア人材養成講座の運営支援・受講料補助
交通事故の被害者やその家族は、心に大きな傷を負ってしまいます。なので、メンタルをサポートするカウンセリング事業の支援、両親を無くしてしまった子供の生活支援なども行っていますね。
急な交通事故で何をすれば良いか分からない人に対しては、無料相談で今後の対応について説明したりしています。
運用益の6000億円が消えた!?
自賠責保険料の運用益は、先述のような事業に使われています。そして、余った分は積立金として、事業の運営に必要な時のために残されていました。
しかし、1994年と95年に、旧大蔵省が財源不足のために、積立金から1兆1000億円を借り入れた過去があります。当初は、2000年度までに返済するという約束だったんですね。
ところが、実際に返済されたのは一部だけで、今でも6000億円が返済されていません。
近年は低金利なので大きな運用益が得られず、毎年100億円を積立金から切り崩して事業費として捻出しています。そのため、積立金は2000億円にまで減少しました。このままのペースだと、約15年で積立金が底を突くようです。
もしも6000億円が返済されなければ、自賠責保険料の値上げなどもありえます。積立金が少なくなると、被害者の救済事業も縮小されるでしょう。
国土交通省は財務省に返還を求めていますが、財源がなく返済予定も未定とのことです。我々の保険料にも影響がありそうなので、今後の動向に注目するべきですね。